ゲームと探究の関係性について考える日々です。
今回は、日本が産んだ世界的RPG、ドラゴンクエストから学ぶラーニングデザインを考えてみます。
ドラゴンクエストとは
については、ご存知の方も多いと思いますが、ゲームデザイナーの堀井雄二氏、ドラゴンボールやDr.スランプでおなじみの鳥山明氏のキャラクターデザイン、先日お亡くなりになられたすぎやまこういち氏のすばらしい音楽、が特に有名な作品です。
基本的に、「正義VS悪」の構造でストーリーが進行します。モンスターがいるフィールドマップを歩き各地にあるお城や町へ赴き、武器や防具を揃え、やくそうなどのアイテムを袋に詰め、ダンジョンを探索し、ラスボスを目指します。
原点にして最高峰のRPGと言われる作品でもあり、多くのゲームクリエイターがこの作品に影響を受けたと言われます。
今までに出たドラゴンクエストは、Ⅰから始まり、節目のⅩは初のオンラインゲーム、現在Ⅻが製作中とのことです(2022年7月時点)。またドラゴンクエストモンスターズのような派生した作品も多数出ていますね。皆さんはどの作品がお気に入りでしょうか。
ドラゴンクエストのラーニングデザイン
さて、そんなドラゴンクエストですが、どんなところにラーニングデザインがされているでしょうか。
前回の「マリオから学ぶラーニングデザイン」では、チュートリアルの重要性と緩やかなレベルデザイン(難易度調整)が重要ではないかと示しました。アクションゲームならではだと思います。
では、RPGではどうなのか。
ドラゴンクエストⅠを立ち上げると、今までになかった設定が出てきます。
名前をつけることができる
主人公の名前をつけるところから始まります。
文字数制限はありますが、多くの子供達が自分の名前やあだ名などをつけたのではないでしょうか。
王様のセリフ=ミッションの提示
名前を設定したら、場面が変わり、王様が目の前にいて、こう呼びかけます。
「おお、◯◯、勇者ロトの血を引く者よ そなたの来るのを待っておったぞ」
ゲーム画面から、自分の名前を呼びかけられます。
まさかゲームから呼びかけられるとは誰も思いません。ここに没入感が生まれます。
このあと「その昔、勇者ロトが神から光の玉を授かり、魔物を封じ込めたという…」というセリフが表示され、「竜王を倒し、光の玉を取り戻してくれ」「宝の箱を取るがよい」「この部屋の兵士に聞けば旅の知識を教えてくれよう」などのセリフが聞くことができます。
これらはすべてミッションの提示です。プレイヤーはなぜ世界を救うのかという目的意識が芽生えていないのかもしれません。そこで再度、ゲーム画面から自分の名前を言われ、自分のミッションを告げられる。ここに主体性が生まれるのではないかと思います。
このセリフには「勇者ロト」という言葉が出てきます。これは後々わかりますが、勇者ロトの残した軌跡を辿ることで、冒険に必要なアイテムなどを入手できます。
最終ゴール:竜王を倒す、光の玉を取り戻す
→そのための中間ゴール:姫様を救う
→そのための中中間ゴール:勇者ロトの軌跡を辿る
PBLなどを行ったことがある人はわかると思いますが、長期間のプロジェクトになればなるほど、子どもたちはだらけてきたり、会社の中でのプロジェクトでも、半期報告などの報告義務があるでしょう。
そのような機会があって、目標と現在地の差を確かめ、進んでいる道は正しいかどうかを把握しているはずです。
RPGでは、フラグによってそれを管理しているはずですが、もちろんプレイヤーには表示されませんし、表示されていると面白くないでしょう。
姫を救う、ロトの軌跡を追う、といった目標(他にも、伝説の武器や防具を手に入れるということや、Ⅱになると仲間をふやすということ、船を手に入れるなどもあります)がその役割を果たしているのではないでしょうか。
王室という状況設定
実はこの王室という状況設定も絶妙です。
この王室から出るためには、扉を開ける必要があります。
しかし、初期のドラクエは扉を開けるためには「鍵」が必要になります。
そこで、隣にいる兵士に声をかけると、宝箱の中に鍵があることがわかります。
(他にもゴールド、たいまつをゲットできます)
兵士から話を聞き、宝箱を開け、鍵をゲットし、扉を開けます。
なんでもないことのように思うかもしれませんが、これはドラクエの本質を捉えていることだと思います。
ドラクエは、ほとんどの場合、誰も話しかけてくれません。自分からキャラクターに話しかける必要があります。仮に兵士が配置されていなかったら、プレイヤーは路頭に迷うでしょう。ここで、プレイヤーは「あ、ドラクエって人に話しかけなくちゃいけないんだ」ということを学びます。
また、強敵(課題)に出くわした時、どう乗り越えるかといえば、アイテムを入手します。光の玉をゲットすることも目的の一つになっていますが、アイテム収集もドラクエの醍醐味ですよね。
まとめると、
1:自分の名前をつけると、呼びかけてくれる
2:王様がゲームの中でのミッションを伝えてくれる
3:ミッションの達成のための目標を伝えてくれる
4:人に話しかける
5:宝箱からアイテムを入手する
6:アイテムを使い、部屋を出る(階段を降りる)
が日本で初めてのRPG、ドラクエが作ったチュートリアルです。
先述の通り、ドラクエは多くのゲームデザイナーに影響を与え、例えばFinal Fantasyは生まれなかったかもしれません。このチュートラルは、ドラクエというRPGのチュートリアルと同時に、以降のRPG作品にとってのチュートリアルとも言えるでしょう。
秀逸なのはこれらを全て説明的にするのではなく、必然性を持った状況設定を作り、さもプレイヤーが自発的に見つけたかのように、さりげなく配置されているということです。
総合的な探究の時間で真似できることはないでしょうか。
教員や私たちコーディネーターが探究のテーマを与えるのではなく、さも児童・生徒たちが自分達で気づいたかのように自然とテーマを見つけ、人に話しかけたり宝箱を開けるがごとく、探究のルールを理解できて自分達で探究できるもの…
そんなことが本当に可能なのでしょうか…
それをまさに自分自身が探究しているようなものです。
そのような探究学習ができるよう、ラーニングデザインをこれからも考えていきます。
それではおのおの、ぬかりなく。