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とある教育コーディネーターが学校でやってきた実践と失敗の数々

イシイジロウ氏の「IPのつくりかたとひろげかた」は高校魅力化で大事な考え方

ゲームデザイナーのイシイジロウ氏による「IPのつくりかたとひろげかた」を読みました。これが高校魅力化においてはとても大事な考え方だと思いました。

なお、これは2020年の作品で、続編の「ストーリーのつくりかたとひろげかた」についてはまだ読んでおりません。

まずIPというのは、Intellectual Propertyの略で、知的財産と訳されることが多いものです。経営の視点で言えば、経営資源の一つ、「ヒト・モノ・カネ・情報・時間」に加え、「IP」も大事な資源です。

 

ゲームやアニメーションの世界だとイメージしやすいでしょう。

例えば「鬼滅の刃」がお菓子とコラボするというような形。

鬼滅の刃というアニメのキャラクターのIPを使って、他の商材とコラボレーションすることで、新たな資金を生み出しています。

日本で最も強いと思われるIPは、ポケモンでしょう。なにせポケモンのIPを守るために株式会社ポケモンという会社まであるくらいですから。

 

イシイ氏によれば、IPには「世界観IP」「ストーリーIP」「キャラクターIP」の3つがあり、例えばシリーズものとしてヒットしている作品には、この3つのIPがしっかりと組み込まれているのだとのことでした。

IPの説明には、海外のマーベル・シネマティック・ユニバースMCU)やスターウォーズターミネーターバックトゥーザフューチャーなどの例を出し、なぜあの作品は…、一方あの作品は…と紹介されています。

また、日本では名探偵コナンドラゴンボールドラえもん鬼滅の刃ガンダムなどの例を出して、日本独自のIPの強さを示していました。

確かに、あの映画はキャラクターだけ取り出しても成立しないな…と思いながら、読んでおりました。

 

高校魅力化で大事な考え方(1) 「世代交代(キャラクターIP)」

高校魅力化において大切なことは、チームづくりであるとよく言われます。

先生やコーディネーター、役場職員など、異なる所属の人たちでチームを組み、同じ共通目的のために力を合わせなければなりません。

最初のプロジェクトの立ち上げの時は、やる気と熱意に満ち溢れたチーム編成がなされることが多いですが、代を重ねるに連れて当初の熱意は薄れ、惰性で進むこともあります。と同時に、ずっと残り続けているメンバーもおり、(コーディネーターが主にそうなりがちなのですが)少しずつそのプロジェクトは、「この人しかわからない」という状態になりがちです。

「この人にしかわからない」という状態は、その任せられている人の希少価値が高くなりますが、組織としてはかなりヤバい状態とも言えます。

 

IPの視点で言えば、それはある種の「キャラクターIP」あるいは「IPとしては不十分」とも言えます。

学校なのであまり知的財産というイメージはありませんが、その人間の「超」俗人的なプロジェクトになってしまい、その人がいなくなった途端、そのIPが廃れる状態になりかねません。

これは書籍にもありましたが「ドラゴンボール」では主人公「孫悟空」から世代交代して「孫悟飯」に切り替えようとした時もありましたがうまくいきませんでした。

また、メタルギア小島秀夫さんがKONAMIから独立し、以降メタルギアの続編は出ていません(サバイブは除く)。クリエイターが全面に出たマーケティングだったためということもありますが、メタルギアというIPを考えると強いIPだとは言い切れませんよね。

ドラゴンボールで言えば、キャラクターIPからは逃れられず、再度孫悟空に戻りましたが、鳥山明先生が描いていた時代から、「GT」そして「超」へと鳥山明先生が監修(=プロデューサー)に回り、クリエイターから脱したことはIPとしても強くなったのではないでしょうか。ドラえもん藤子・F・不二雄先生が亡くなりましたし、声優も変わりましたが、続いています。

高校魅力化というある種のIPがIPとして成長するためには、クリエイターがいなくなっても継続するための仕掛けを考えなければならないのだと思います。

 

高校魅力化で大事な考え方(2) 「世界観」を作れるかどうか

IPとして強いものは「キャラクターIP」でも「ストーリーIP」でもなく、「世界観IP」です。ガンダムの例はとても面白かったですが、かなりシンプルに述べると、世代交代を通じて、ガンダムというモビルスーツが出てきた時点で、どんなストーリー、どんなキャラクターが主人公でも、「ガンダム」という認識ができるようになりました。これが強いIPの証拠であり、世界観IPなのだということです。

世代交代の際、最初のクリエイターが手放すかどうかがIPを育てる上では大事なことです。しかし、クリエイターは往々にして、IPを育てようとはあまり思っていません。

クリエイター鳥山明先生にとっての、集英社鳥嶋和彦氏。

クリエイター宮崎駿先生にとっての、プロデューサーの鈴木敏夫氏。

というようにコンテンツから、IPに育てるためには、クリエイターだけが作るのではなく、いわゆるプロデューサー的ポジションの人が必要だと思います。

 

さて、学校においてはどうでしょうか。

学校での世界観は考えにくいかもしれませんが、学校は、良くも悪くも先生や児童・生徒が毎年少しずつ変わる=新陳代謝をする場所です。つまり、キャラクターIPではありません。

学校はそのキャラクターが変わろうと、なぜかイメージが変わりません。それは「建学の精神」や「校訓」のような不変の価値のあるものが横たわっている気がします。そして、まだ成熟していませんが、それこそが「世界観IP」ともいうべきものです。

 

現在、学校には授業を作るクリエイターともいうべき先生がいますが、それをプロデューサーという立場で個々の授業ノウハウやスタイルを抽象化し、その学校のすべての先生に波及させるような存在が不在です。

そもそも先生の世界では、弟子を作ることや一派や徒党を組むことはありません。なので、このIPを育てるということはこれまでの学校ではありませんでした。

 

高校魅力化の立場としては、このプロデューサーの立場を作り、どう波及させるのか、そしてそれを「○○学校って、〜〜だよね」という世界観IP=学校IPにまで発展させられるかが重要になります。

もう一歩進んで考えると、この学校IPが固定化されると、児童募集や生徒募集が楽になり、あるいは投資も進むかもしれません。産業界のIPは稼げることが必要ですが、教育界・学校界のIPにおいては、児童・生徒数の増加が報酬になるのだと思います。そして、その結果、人が流れ込み、地価が上がる・投資が進むことになれば、ますます世界観IPが増幅されるでしょう。

 

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「IPのつくりかたとひろげかた」は、ほとんどの人が知っている作品を通じて「IPという考え方」を説明してくれる本で、ただなんとなく読むのでも面白い作品です。

この本を片手に、あの作品は…、あのシリーズは…と考えてみると面白いですよ。

 

それではおのおのぬかりなく。