公立学校の先生は、1971年に制定された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」により、その給与が決まっています。
昨今、ニュースになっている「給特法」は、「残業」に関する裁判でよく報道されています。給特法については研究者が多く論文を出されているので、詳しくはそちらで見てもらえると嬉しいです。ここでは、現場目線でどう受け止め、どのような改善が見込めるのかを考えて見たいと思います。
給特法
文部科学省が公表しているWebサイトを参考にまとめると、
- 教職員は、労働基準法に従い、労働時間は1日8時間までとなる
- 時間外勤務が必要なことがあるが、「時間外勤務手当」は支給しない
- その代わり、時間外があろうがなかろうが、給与の4%を「教職調整額」をその金額を支払う
- 時間外勤務とみなすのは、超勤4項目「生徒の実習」「学校行事」「職員会議」「非常災害、児童生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合」の時に限る
という内容です。
超勤(超過勤務)4項目
学校の中で、時間外勤務とは、
- 「生徒の実習」
- 「学校行事」
- 「職員会議」
- 「非常災害、児童生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合」
の4つを指すということは、それ以外は超過勤務と見做されないということです。
現行の法律上は全て、教員の自主的な活動と見做されます。
また、仮に超勤4項目に該当していたとしても、その労働時間に相当する残業代は支給されず、月に何時間労働しても、基本給与+給料の4%が支払われるのみです。
「はじめての先生シリーズ」で書きましたが、先生に求められる仕事は多岐にわたります。教員の自主的な活動と見做されないためには、労働時間内で完結させることが求められるということです。
果たして、全ての仕事を労働時間内に収めることが果たして可能なのでしょうか。
まず、授業があります。中学校や高校の先生の場合、一日2〜4時間程度でしょうか。もちろん0時間の日もあります。小学校の先生は、担任として6時間授業することが求められます。
部活動は、放課後の時間に行われ、おおよそ1時間〜2時間程度でしょうか。
清掃は30分程度、その上、分掌会議や職員会議などが入ると1時間程度です。
この時点で4時間半〜7時間半です。小学校の場合は、部活動はあまりありませんので、6時間半程度です。
ところが、授業は毎回同じものではないので、毎回授業準備や会議準備が必要です。1授業にかかる準備時間は約2倍かかりますので、2〜4時間授業の場合は、4〜8時間かかるということです。6時間の場合は12時間(!!)。さらに、分掌会で新企画を出す時は、1〜2時間程度は企画書作成に費やすべきです。
となれば、単純計算すると、中学校・高校の場合は9〜17時間、小学校の場合は20時間となります。
もちろん、概算の単純計算ですし、一日の授業時間数も決まっているわけではありませんが、とんでもない労働時間ですね。
自主的な残業時間は、1日、1〜12時間です。平均6時間とすると、月に20日の平日をかけるとおおよそ平均120時間の残業時間となります。過労死リスクは避けられません。
日本は法治国家なので、給特法が改正されなければなりません。改正のための声を上げたり、ロビー活動をする必要もあるでしょう。
ここでは、現場で何ができるかを考えてみます。
残業時間を減らす作戦
時間について考えるということは、資源〔リソース〕について考えるということです。
経営資源の中には、「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」を考えるということです。
以前のブログでも紹介しましたが、このリソースの掛け算によって、学校の成果が決まります。
時間を減らすということは、その他のリソースを上げなければ、労働時間が減る前の成果を出すことができません。
全ての資源を5とし、各資源を掛け合わせる仕組みを作ったとしたら成果は、
ヒト(5)×モノ(5)×カネ(5)×情報(5)×時間(5)×知的財産(5)=15625
→ヒト・モノ・カネ・情報・知的財産(3125)×時間(5)=15625となります。
仮に、時間が5から3に減ったとしたら、
ヒト・モノ・カネ・情報・知的財産(x)×時間(3)=15625
という式が成り立たなければなりませんので、
X=5208、つまり労働時間以外の経営資源の組み合わせで5208の成果を出さねばなりません。
労働時間が減る前は3125だったのが、労働時間を減らした後は5208に拡充されなければならないということです。
約2倍です。
では、ヒト=教員は増えるでしょうか?カネ=教育予算は増えるでしょうか?
教員採用試験の倍率は、小学校教員は1倍を切るところもありますし、定員割ばかりです。その代わり、教員ではなく、非常勤講師・常勤講師は常に募集が求められています。また、スクールサポートスタッフ(SSS)も拡充される傾向にあります。
教員には、教員にしかできない仕事もあるので、できれば教員の人数を増やしてもらいものです。
こちらの記事を見ると、人件費は横ばい(逓減傾向)ですし、教育予算は増えるようには思えません。
残念ながら、ヒトもモノもカネも増えません。ということは、残りの情報と知的財産を増やさねばなりません。
情報を増やす
学校でいう情報は、ICTと考えてもよいでしょう。どのような情報が増えればいいのでしょうか。ということで、タイトル回収となります。今回は、情報を増やすということについて考えます。待たせたな!
- 児童・生徒のデータ(成績表)
児童・生徒のデータを蓄積し、中間や期末試験などで評価をしやすくするということが考えられます。成績表はもちろんデータになっていますが、児童・生徒の住所や保護者への連絡先なども「紙」保存されていることがあります。児童・生徒のデータカルテのようなものがあれば、個人面談や保護者面談の時に話した内容を書き込み、次年度の引き継ぎなどでも使えるでしょう。
- 試験や教材
試験の制作も先生の業務の一つです。昔は手書きで試験を作っていますが、現在はパソコンで作っています。新人の先生でも、試験制作を求められます。過去の試験のデータベース化されていれば、適正レベルに合わせて試験制作ができます。
同様に教材もデータベース化されていれば、すぐに教材準備が可能です。
- オンライン授業・授業動画
授業でもオンライン授業や映像教材によって、授業時間(授業準備の時間)の削減も考えられます。今はYouTubeでも授業系の動画もアップされていますしNHK for schoolも活用できるでしょう。
仮にオンラインでの授業の動画があれば、はじめて先生になる人にとっても勉強になるでしょう。
- 運営委員会、職員会議、委員会資料
運営委員会や職員会議の資料や議事録も残っていれば、議論の再燃ということは起きないでしょう。皆さんの学校では、委員会での議事録などは残っているでしょうか。
議論=思考が明確になると、足りない思考部分を他の人が気づきやすくなりますし、仮に休んでも議論を見て参加しやすくなります。
- スライド
黒板に文字を書くと、時間がかかります。なので、スライドなどで表示すると授業にテンポが生まれますし、動画や写真などを示すことができます。
今の児童・生徒たちは、動画世代で5分くらいの単発動画で育っているので、チョーク&トークで惹きつけるのも至難の業です。経験が浅い先生の場合は、特に心が削られるかもしれません。
今は一人一台端末を持っているので、各社が行っているICTツール(Padlet、Kahoot!など)も使えるでしょうね。もしかしたら、手を上げさせる必要もないかもしれません。
- 校務支援システム
教職員が行う校務を支えるポータルサイトが充実すると、教職員の働きやすさは変わっていきます。校務支援システムが教員の業務の効率を上げるように作られています。
が、残念ながらUIが絶望的です。通信環境も絶望的で、遅くなることもしばしばです。
UIがしっかりした、非常に使いやすいものになれば、LMSとの連携も考えることができるでしょう。
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今回は、給特法を超える!ということで、経営資源である”情報”を増やすことで、”時間”の削減ができないかを考えて見ました。
机上の空論では可能ですが、それを実現するためにも、金が必要になります。
イギリスのように、公立・私立という枠組みを超えて、アカデミーのような民間の資金を注入する仕組みを作るというような抜本的な改革も必要かもしれません。
ということで、今日はここまで。
それでは、おのおのぬかりなく。